手紙でなければ伝わらない、辻仁成の『代筆屋』

『プロの代筆屋による 心を動かす魔法の文章』の著者、中島泰は辻仁成の小説『代筆屋』読んで、プロの代筆屋になったそうです。

メール、SNSと簡単に連絡がとれる便利な世の中です。しかし、クリックでは真摯な想いは伝わらない。

もし、この小説のような代筆屋がいたら、自分が代筆屋のように書けるなら、心の奥のわだかまる想いを、謝罪を手紙で伝えたいと思うこともあるでしょう。

『代筆屋』:辻仁成

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小説『代筆屋』の主人公は、小説家のはしくれになったばかりの頃、代筆の仕事もしていた。口コミで広がったアルバイトで始めた仕事だったが、盛況だった。

仕事場は、レオナルドというカフェで、吉祥寺から井の頭公園に突き抜ける路地にあった。路地の左右には焼き鳥屋、老舗のそば屋、ブティック、不動産屋、古着屋、画廊、土産物屋がある。

“焼き鳥屋いせや”の通りでしょうか。たしか珈琲を挽いているノスタルジックなカフェが一軒ありました。辻仁成は、そのカフェを小説のモデルにしたのでしょうか?

小説家のはしくれの代筆屋は、カフェ・レオナルドの横の狭い階段を上ったところに部屋を借りていた。カフェのマスターが筆無精のお客に、小説家のはしくれを紹介したのがきっかけで、代筆の仕事が舞い込むようになる。依頼者と会い、話を聞くのもレオナルドで、代筆業の事務所のようになっていた。

この小説の面白さは、代筆の依頼者と受け取る人にまつわる物語と、依頼者の本音を優しく表現する代筆屋の手腕です。その手紙で想いが叶わなくても、両者が気持ちよく過去を清算ができる手紙文です。作家の創作力と文筆力には、あらためて感心してしまいます。

10編の代筆に、短編小説のような物語がある。

■ハンバーガーショップでアルバイトしている19歳の青年が、名前もわからない女子高生への恋文。

■自分の身勝手で別れた彼が、結婚するという噂を聞いて、いてもたってもいられなくなった女性。

■一代で築いた会社を息子達にまかせてから孤独になった会長。家族の気をひくための遺書。

■初めて好きになった深夜カフェのフラメンコダンサー、彼女を思うあまり、彼女を悲しませている人を殺してしまう。刑務所を出てから10年、彼女に謝罪する。

■気が弱い女性の4つの代筆、一つ目は自信過剰の同僚からのプロポーズを断る。二つ目は好きな同僚に恋心を伝えてほしい。三つ目は見合いをして二、三度デートした相手に断りの手紙、四つ目はかつての恋人の腐れ縁を絶つ手紙。

■夫、小さな子供を捨てて、好きになった男と駆け落ち、25年の歳月が過ぎて、息子が結婚すると聞いた。せめておめでとうを言いたい。

■道を挟んで向かい同士の幼馴染、彼女は物心ついてからずっと彼が好きだった。いつの頃から彼は手の届かない人になってしまった。そんな彼に思いを伝えるラブレター。

■88歳の老女が、いままで我慢に我慢を重ねてきた90歳の夫と離婚するための手紙。

■彼の部屋を飛び出し家出してしまう。飛び出して数ヶ月、彼への思いを確かめる。そして、いまは話すべきこと。

■余命数ヶ月の祖母が、高校生の孫に会いたがっている。しかし、その孫は事故で亡くなっていた。亡くなったこを病気の祖母には内緒にしていた。孫に代わって祖母に書いた手紙、祖母からの返事。

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