舞浜のイクスピアリで映画を観たあとは、いつも地下の丸善に寄る。村上春樹の”HEAR THE WIND SING” (『風の歌を聴け』の英語翻訳版)を見つけた。嬉しい。カフェに入り、ノンアルコールビールを飲みながら読み始めた。
HEAR THE WIND SING: Haruki Murakami, translated by Ted Goossen
風の歌を聴け
この本には『HEAR THE WIND』と 『PINBALL, 1973』、それにIntroductionに『職業としての小説家』でも書かれいる、あの”『風の歌を聴け』の誕生物語”が英文で紹介されている。
私は村上春樹と歳が近いので『風の歌を聴け』には懐かしい固有名詞がたくさんある。それで何度も読んでいる。だから頭の中に大まかなイメージがあって、英文も難しくはない。原書を読んでいるような感じで読める。
村上春樹は、初めての小説『風の歌を聴け』を書き始めたとき、自分の文体が定まらず、オリベッティのタイプライターで、まず英文で書いて、それを日本語に翻訳してみて、書き続ける文体を見つけたと言っている。だからきちんと主語と述語がある文のリズムで、日本語でも英語でも心地よく読める。
こんど中国語で翻訳された『且聴風吟』も読んでみよう。
一部引用紹介します。一部引用紹介します。専門家ではないので、はっきりとは言えませんが、他の翻訳版より、原文に沿った翻訳になっているような気がしている。
この話は1970年の8月8日に始まり、18日後の、つまり同じ年の8月26日に終わる。
The story begins on August 8, 1970, and ends eighteen days later – in other words, on August 26 of the same year.
一夏中かけて、僕と鼠はまるで何かに取り憑かれたように25メートル・プール一杯分ばかりのビールを飲み干し、「ジェイズ・バー」の床いっぱい5センチお厚さにピーナツの殻をまきちらした。そしてそれは、そうでもしなければ生き残れないくらい退屈な夏であった。
The rat and I had spent the whole summer as if possessed, drinking enough beer to fill a twenty-five-meter pool and scattering enough peanut shells to cover the entire floor of J’s
Bar a depth of two inches. We were bored out of our skulls that summer, and surviving the only way we knew how.
「フローベルがもう死んじまった人間だからさ」
「生きてる作家の本は読まない?」
「生きてる閣下になんてなんの価値もないよ」
「何故?」
{死んだ人間に対しては大抵のことは許せそうな気がするんだな」”It’s because Flaubert’s already dead.”
“So you don’t read books by living writers?”
“No, I don’t see the point.”
“Why not?”
“I guess because I feel like forgive dead people,” I said.
鼠の小説には優れた点が二つある。まずセックス・シーンの無いことと、それから一人が死なないことだ。
The rat’s novel had two good things about it, First, there are no sex scenes; second, no one died.
右の乳房の下に10円硬貨ほどのソースをこぼしたようなしみがあり、下腹部には細い陰毛が洪水の後の小川の水草のように気持ちよくはえ揃っている。おまけに彼女の左手には指が4本しかない。
There was a coin-sized mark the color of Worcestershire sauce below her right breast.Her delicate public hair reminded me of river grass after flood.
僕はうんざりした気分でそう言った。彼女の口調には僕を苛立たせる何かがあった。もっともそれを別にすれば、彼女は僕を少しばかり懐かしい気分にさせた。古い昔のなにかだ。
I was getting fed up. Something about her tone pissed me off. At the same time, though, I have to admit she was making me feel a little nostalgic.
彼女が溜息をついて、煙草に火を点けるのが受話器の向こうから聞こえた。その後ろからボブ・ディランの「ナッシュヴィル・スカイライン」が聞こえる。店の電話なんだろう。
She sighed. I could hear her lighting up a cigarette at the other end of the line. Then came the sound of Bob Dylan’s Nashville Skyline . She was probably phoning from work.
僕は時折嘘をつく。
最後に嘘をついたのは去年ことだ。I do tell lies on occasion. The last time was a year ago.
店を出て、僕たちは不思議なくらい鮮明な夕暮れの中を、静かな倉庫街に沿ってゆっくりと歩いた。並んで歩くと、彼女の髪のヘヤー・リンスの匂いが微かに感じられる。柳の葉を揺らす風は、ほんの少しだけれど夏の終わりを思わせた。しばらく歩いてから、彼女は指が5本ついた方の手で僕の手を握った。
We left the restaurant and strolled along tghe quiet street past the row of warehouses. It was twilight, and everything was strangely vivid. As I walked beside her, I caught the fain fragrance of her shampoo. The wind that shook the leaves of the willow trees had a trace of the end of summer. We had not been walking long when she reached down and took my hand in hers. It was the hand with five fingers.
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