大人の英作勉強:芥川龍之介の『蜜柑』
芥川龍之介の『蜜柑』、梶井基次郎の『檸檬』そして太宰治の『桜桃』、どの小説も憂鬱なモノクロームの風景に、色鮮やかな果物が浮かびあがってくる。『蜜柑』の舞台は横須賀駅発の上り列車がトンネルを出て、ある町外れの踏切を通りすぎるまで、ゆっくり読んでも10分とかからない短編小説です。
横須賀線で横須賀まで行ったのは遠い昔でトンネルがあったかどうかも記憶にありません。横須賀線で横須賀まで行くことがあったらトンネルと、その前後の風景を見てみたい。
原文の冒頭
或 曇っ た冬の日暮である。 私は横須賀発上り二等客車の隅に腰を下して、 ぼんやり発車の笛を待っていた。 とうに電 燈のついた客車の中には、 珍らしく私の外に一人も乗客 はい なかった。外を覗くと、 うす暗いプラットフォオムにも、 今日は珍しく 見送りの人影さえ跡を絶って、 唯、 檻に入れられた小犬が一匹、時々 悲しそうに、 吠え立てていた。これらはその時の私の心もちと、 不思議な 似つかわしい景色だった。
私の頭の中には云いようのない疲労と倦怠とが、 まるで雪曇りの空のようなどんよりした影を落していた。 私は外套のポッケットへじっ 両手をつっこんだまま、 そこにはいっている夕刊を出して見よう元気さえ起らなかった。
私の翻訳
It was a cloudy winter evening when I sat in a corner seat of the second-class coach from Yokosuka, waiting aimlessly for the starting bell. The coach was now empty, with no one but me. As I looked outside through the train window, the platform was almost deserted, except for a puppy occasionally barking sorrowfully from its cage. These scenes strangely mirrored my feelings of emptiness and loneliness.
My mind was clouded with unspeakable weariness and fatigue, like a dark shadow cast by snow clouds. I had both hands in my overcoat pockets, lacking the energy to read the evening newspaper I had taken out.