北鎌倉散歩:円覚寺と川端康成の『千羽鶴』

円覚寺と川端康成の『千羽鶴』

三連休の中日、今年初めて北鎌倉を訪れ、そして円覚寺が初詣になりました。この時期は、雪が降ることもある成人式の季節ですが、今日は驚くほど暖かく、日差しも強く照りつけています。妻に北国の子供のように厚着をさせられた私は、下着が汗で濡れてしまっています。円覚寺の仏日庵では、辛夷の花が膨らみ始めている様子です。

DP2Q1470-2
川端康成の『千羽鶴』

円覚寺は、川端康成や大佛次郎、夏目漱石、石川啄木など多くの作家が逗留し、参禅した場所であり、彼らの作品にも円覚寺が描かれています。そんななかで、川端康成の『千羽鶴』は北鎌倉が舞台になっていて、冒頭は…

鎌倉円覚寺の境内にはいってからも、菊治は茶会へ行こうかとと迷っていた。時間には遅れていた。
円覚寺の奥の茶室で、栗本ちか子の会があるたびに、菊治は案内を受けていたが、父の死後一度も来たことがなかった。亡父への義理の案内にすぎまいと見捨てていた。
ところが今度の案内状には、弟子のひとりの令嬢を見てほしいと書き添えてあった。
これを読んだ時に、菊治はちか子の大きなあざを思い出した。

この小説は主人公の菊治と四人の女性との関係を描いた物語です。菊治の亡父は茶道家であり、二人の愛人がいました。一人は「ちか子」といい、亡父の弟子であり、左の乳房に大きなあざがあります。もう一人は「太田未亡人」といい、亡父の茶道の友人の妻であり、友人の死後に菊治と愛人関係になりました。また、菊治の見合い相手の令嬢で、千羽鶴の風呂敷を持っている「稲村令嬢」と、太田未亡人の娘である「文子」も登場します。

この物語では、優しさとエゴイズム、品格と妖艶、貞節と不倫、知性と禁断といった相反する要素を持つ男女の関係が描かれています。川端康成の作品をあまり読んだことがなく、この物語がどこまで深いものなのか理解するのは難しいです。しかし、年若い女性を偏愛し、美しく描くことで知られている川端康成の小説です。

DSCF2631-2

DSCF2650-2

令嬢が二人うしろから急いで来た。
菊治は道をゆずるように立ち止まって、
「栗本さんのお茶席は、この路の奥でしょうか」とたずねてみた。
「はあ」と二人の令嬢は同時に答えた。
——
桃色のちりめんに白の千羽鶴の風呂敷を持った令嬢は美しかった。

二人の令嬢が茶室へ入る前に足袋をはきかえている時、菊治来た。

小説の舞台になった日仏庵の茶室です。

DSCF2643-2

茶室としてはむろん明る過ぎるのだが、それが令嬢の若さを輝かせた。娘らしい赤い袱紗も甘い感じではなく、みずみずしい感じだった。令嬢の手が赤い花を咲かせるようだった。令嬢のまわりには白く小さい千羽鶴が立ち舞っていそうに思えた。
太田未亡人は織部の茶碗を掌に入れて、
「この黒に青いお茶は、春の緑が萌え出たようでございますね」と言ったが、亡父の所持であったとはさすがに口を出さなかった。

小説の題は『千羽鶴』ですが、物語の女性は千羽鶴の風呂敷の令嬢でななく、太田未亡人の令嬢の文子です。

DSCF2642-3

夕風が若葉に伝わって来るのに、菊治は帽子を脱ぎながら、ゆっくり歩いた。
山門の陰に太田夫人が立っているのが、遠くから見えた。
ーーー
しかし、菊治は山門の方へ歩いていった。すこし頬がこわばっているようだった。
未亡人が菊治を見つけて、逆に近寄って来た。頬を染めていた。

DSCF2660-2

スポンサーリンク
ブログ村

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク