書くイメージを広げる『日本語表現大辞典』

p9190011-2

太宰治は『ア、秋』にこんなことを書いている。

本職の詩人ともなれば、いつどんな注文があるか、わからないから、常に詩材の準備をして置くのである。「秋について」という注文があれば、よし来た、と「ア」の部の引き出しを開いて、愛、青、赤、アキ、いろいろのノオトがあって、そのうちの、あきの部のノオトを選び出し、落ちついて、そのノオトを調べるのである。

トンボ。スキトオル。と書いてある。

秋になると、とんぼも、ひ弱く、肉体は死んで、精神だけがふらふら飛んでいる言葉らしい。蜻蛉のからだが、秋の日ざしにに透きとおって見える。

秋ハ夏ノ焼ケ残リサ。と書いてある。焦土である。

夏ハシャンデリヤ。秋ハ、燈籠。とも書いてある。

コスモス、無残。と書いてある。——-

太宰治が几帳面にアイウエオ順に「言葉のネタ、比喩」をつけていたとは想像できないが、物書きはネタに敏感で、引用の名人です。

日本語表現大辞典:小内 一著

日本語表現大辞典は、そんな言葉の比喩と類語をアイウエオ順に引き出しにプリセットしてくれる辞書でしょう。調べる辞書ではなくて、書く人の辞書です。

日本語表現大辞典は、作家264名、作品数868から表現例をのべ33,800収録しています。見出し語はアイウエオ順になっています

著者は、この本の活用のしかたについて、

  • ものごとのさまざまなイメージや表現例がわかる。
  • イメージが広がる
  • 適切な比喩で効果的表現を
  • 思いついた言葉で必要な項目にたどりつける
  • 個性ある表現を楽しみ、連想をふらませる

p9190003-2

こんな風に書かれています。

見出し語:秋

あき

青く澄んだ空を赤蜻蛉お群れが飛ぶ:外村繁

都会の花瓶にも可憐なコスモスのほころびる頃:荻野アンナ

あきのあめ

九月の雨が、木の葉を黄ばませるより先に腐らせるかと見えるほど降り続く:堀辰雄

あきのかぜ

肌にまつわるような風の冷たさに深まり行く秋を感じる:石川達三

あきのそら

台風が過ぎてにわかに秋の色を深めた空:野坂昭如

あきのひ

夕方の淡く滲むような秋の長い陽射し:小池真理子

しょしゅう

夏の光が、目に見えぬ目に見えぬ分水嶺を越えるかのように、色合いを微かに変えるころ:村上春樹

ばんしゅう

何もかもがすきっとってしまいそうなほどの十一月の静かな日曜日:村上春樹

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