泥の河:宮本輝著を読んで
涼しくなったので、カメラを持って出かけることにした。本棚から電車で読み切れそうな薄い文庫本、宮本輝の「泥の河」を選んで鞄に入れた。地下鉄に乗ってから、下町の写真でも撮ろうと思い門前仲町で途中下車した。20ページほど読み進んだ本が気になり、ホームのベンチに座って最後まで読んでしまった。読み終えたら、何か、もの悲しい気持ちになってしまった。門前仲町の裏道をぼんやりと歩き回り、結局カメラを鞄から一度も出さなかった。
宮本輝が自身の幼少期の体験をモチーフした小説と言われている。昭和30年の大阪の安治川の河畔の食堂の少年と、川に浮かぶ船で生活していた貧しい姉弟との、つかの間の関わりを、まだ貧しかった昭和の時代と、汚れた河を背景に、少年期の敏感な感性、女性への戸惑いを、黒く塗りつぶされた背景に揺れる光の陰影のような情緒で描かれている。
昭和30年、相対的には貧しくなくても、絶対的に貧しい時代でした。私も幼少でした。貧しかった時代がもの悲しかったのではなく、貧しいから子供ながら敏感に周りに気を使っていた自分を思い出して、ちょっと沈んでしまった。
前に読んだはずなのに記憶がありません。たぶん、欲望だけでギラギラしていた若い時は小説を読み取る感性がなかったのでしょう。これから、昔読んだはずの文学書を読み直して見たいと思っている。
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