静かに勇気を与えてくれる「はらだみずき」の『海が見える家』

『海が見える家』:はらだみずき著

青い海と空、そして岬の丘の一軒の家、文庫本の表紙の絵に惹かれて買いました。

「会社で評価されて出世しようと頑張っている人」、「ブラック企業のようなところを抜け出せないでいる人」、そして「海が好きな人」、そんな人たちに読んでもらいたい。静かに勇気を与えてくれる小説です。

この小説の中の二つの言葉が小説の命題になっていると思う。

「人は社会に出れば、必ず他人に評価される。そういう運命にある。人は、他人による評価がすべてだ」
「他人にどんな評価をされようが、自分で納得していない人生なんて全く意味がない。自分を評価するのは、最終的には自分でしかない。」

ただ小説は堅苦しいものではなくて、夕日が綺麗な房総の海、海が見える丘の家を舞台にした、ほろ苦くも優しい物語です。

私のあらすじ

「就職して1ヶ月で辞職、疎遠にしていた父の死」
主人公の緒方文哉は大学を卒業して就職したが、五月の連休明けには退職してしまった。就職した会社がブラック企業だった。そんな矢先、見知らぬ番号の電話を受け取ると、ぶっきらぼうな言い方で「あんたの親父、亡くなったぞ」と言われる。
母は他の男と出て行き、父が姉と文哉を育ててくれた。しかし高校生のとき些細ことで父と口論になり、それ以来父と打ち解けることがなく、大学に入って独り住まいになってからは、家にも帰らず、父と会っていなかった。

不動産会社の人事部長だった父が、50歳そこそこで突然会社を辞めて館山に移り住んだ。

房総の丘の見える家と父の秘密」
父が住んでいた家は館山の別荘地の丘の上にあった。何日か滞在して遺品を整理していくうちに、知らなかった父の一面、そして父が館山に移り住んだ訳、若い頃の秘密を知ることになる。父は地元の人との親交もあり、何軒かの別荘の管理の仕事もしていた。地元の人と別荘に来る人たちが親交を深める役割もしていた。

父の秘密は海にあった。家の裏の小屋にはオレンジ色のサーフボードがあった。父は海辺の駐車場の近くで心筋梗塞で亡くなった。父の車のダッシュボードに古い一枚の写真があった。水着姿の3人写っている。真ん中は大学生だった頃の父、両端には少年と、はにかんだような女性が写っていた。

「ほろ苦い父の青春、父と同じ海に惹かれていく」
写真に写っていた少年は、父が死んだことを電話でぶっきらぼうに教えてくれた和海、そして女性は和海の姉だった。和海は、少しずつ父のことを話してくれた。そして文哉に海を教えてくれる。遺品を整理して、家を売って、姉と少しばかりの遺産を分けて去ろうとしていた文哉だったが、しだいに海に惹かれて行く。
「少女凪子と父」
父を慕っていた凪子(和海の姪)、凪子をサポートしていた父、海にはほろ苦さと後悔の青春があった。

父のボードで、初めて波に乗り海に立ち陸を見た。父が見た同じ景色を。たそれだけのことが無性にうれしかった。

「絶対に父のような生き方はしない」と思っていた文哉は、父と同じような道を歩もうとしている。

『海が見える家』

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